| むかしむかし、ずっと昔のことです。 おじいさんが宮川へ魚をとりにいきました。強い日差しの下で、わき目も振らずに魚をとっていました。 「おゃ!へんなものが見えるぞ」 川底に大きなかたまりがあるのを見つけました。 「やゃ!これはなんじゃ?」 よく見るとそれは、うるしあぶらのかたまりでした。上流の山や谷から、うるしの木から出る白っぽい液が、しずくとなってたれ落ち、川底に沈み長い月日の間に大きなかたまりになっていたのです。 その頃、うるしの液は、刀のさやや、馬のくらなどに塗り、たいへん貴重なものでした。なにしろ一本のうるしの木から、ほんのわずかの液しかでないのですから、牛程のかたまりを見つけたおじいさんは、魚をとることも忘れてうるしのかたまりをとって売りにいきました。 「ひぇーこんなにもらっていいのかのう。」 びっくりするくらいの小判をもらったおじいさんは、鼻歌で家へ帰りました。 くる日もくる日も、うるしのかたまりをとってきては売って、笑いも止まらない程の大金持ちになりました。わき目も振らず一生懸命魚をとっていたのに、たいへんぜいたくな暮らしをするようになりました。 さぁ、村ではたいへんなうわさです。みるみるうちに大金持ちになったおじいさん。村人たちは不思議に思いました。 みんなのうわさを耳にしたおじいさんは、うるしのありかを村人たちに知られると大変だと思い、模型の蛇を造り川底に沈め村人たちに「あの渕には大蛇がいる」 と言いふらしました。びっくりした村人たちは 「そんな処へはこわくっていけねぇ」と恐れて、誰も寄り付こうとしませんでした。 「これでおれが一人じめできる」 と安心したおじいさんは、こっそりとうるしをとりに出かけました。 「へへぇ、これでまた小判が増えるわい」 欲を出して川底に手を入れようとした時、風が川の上に渦を巻いて吹き荒れ 「ウォー!」 といううめき声とともに、おじいさんの造った模型の蛇が、本物の大蛇となって現われ、おじいさんを一気に呑込んでしまいました。 そのおじいさんを市守長者といい、うるしのかたまりがあった処を長者ヶ渕と呼んでいます。 |